Belgium 09.2025 (vol. 2)

 

ベルギー 秋の買付け旅(後編)

次はミュゼへと思いつつ、気づけばもうお昼。
おなかが空いたままでは動けないので、ミュゼの近くの森へ少し寄り道をしてから、食事をとることにしました。

街の中に、こんなにも豊かな森があるというのもベルギーらしいところ。
散歩をして深呼吸をすると、肩の力がすっと抜けていくような時間。
荷物を抱えたまま、森の中に現れたレストランへ。

そして席につき、まずはフリットをオーダー。

ベルギーに来たら、やはりフリットは外せません。
フランスのジャガイモも美味しいけれど、
ベルギーのそれは甘みと粘りが増し、ほくっとねっとり。ここへ来ると必ず食べたくなります。

そして、冷えた体をあたためるように、熱々の Soupe de Poissons(魚のスープ)。
ルイユと薄切りバゲットが添えられていて、この組み合わせがまた最高。
友人は Croquettes aux Crevettes。
そとはカリッと、中はとろり。レモンをぎゅっと絞って味わいます。
どちらもベルギーらしい、素朴で温かい料理。

おなかを満たし、ようやくミュゼへ。

レンガ色の外観とは対照的に、扉を開けた瞬間に広がるのは、やわらかな色が重なり合う、静かな世界でした。

Van Buuren のリビングは、
ファブリックや織物、木の素材、そして絵画の優しい色が静かに調和し、まるで誰かの美しく整えられた暮らしに招かれたような空間。
アールデコの直線の美しさに、布の質感がふくよかに寄り添い、強さとやわらかさがひとつの部屋の中でひっそり呼吸しています。

壁に飾られた絵画も、主張しすぎない佇まい。
生活の中に静かに溶け込んでいく色たち。
美術館というより、丁寧に手入れされた誰かの家にそっとお邪魔したような…
そんな心地よさがありました。

心が満たされ、列車に乗ってさらに北へ。
翌日の買付に備えます。

翌朝は、まだ暗い5時から蚤の市がはじまります。
静かな広場に灯るランプを頼りに、懐中電灯を照らしながら歩く時間は、いつも少しだけ緊張します。

その朝は、ウースター窯のファーストピリオドの皿、そして静かなブルーのデルフト皿に出逢うことができました。
どちらも1700年代のもの。
てのひらにのせ、重さや質感をそっと確かめる時間は、何度経験しても特別です。

夜の気配が残る早朝に手に取った一枚、一枚。
静かな気配とともに、お届けできたらと思います。

そのあとに出逢った古いものたちも大切に抱えて、
その重みごと、旅の記憶を閉じ込めるような感覚。


早朝の買付は冷えるぶん体力を消耗してしまい、
午前10時には集中力も切れて終了。

朝ごはんを食べ、ずっしりと重くなったスーツケースを引きずるようにして、パリへと戻るのでした。

ベルギーで出会った器や古いものたちも、ゆっくりと店頭やオンラインでご紹介していきます。
旅の記憶が、誰かの日々の景色にそっと溶け込んでいきますように。

その旅の途中で、静かに心に残った二つの品を選び取りました。
次回のオンライン更新では、ブリュッセルで訪れたアールデコの邸宅ミュージアムを思い起こすアールデコ時代のガラスコンポティエ、そして貴重なウースター窯ファーストピリオドの青絵皿をご紹介予定です。
ぜひご覧ください。

SASHIIRO

 
kanako yamane